約 431,449 件
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1342.html
320 名前:【SS】[sage] 投稿日:2012/01/01(日) 00 39 49.52 ID 0f4rw5OJ0 [5/5] SSふたりの年明け 「はあぁ、寒っ……」 熱い缶コーヒーをひと口啜り、ほぅっとため息を吐く。吐く息が白くなってますます寒さを感じさせる。 途中コンビニに寄って買った缶コーヒーを啜りながら俺たちは一緒に歩いていく。 「ほら、さっさと歩く!」 「へーへー」 俺のとなりを歩く桐乃が肘で小突いてくる。 今日は大晦日で時刻は今、午後23時30分をまわったところだ。もうすぐ年が明けて新年という時間帯。 俺と桐乃は2人で、年明け早々近所の神社で初詣をしようという話になっていた。ついさっき決まったことだけどな。 ま、毎年親と紅白かガ○使の番組の取り合いするのもなんだしさ。 それに妹と一緒に新年を迎えるってのも悪くないって思ったのが本音だ。 本当はこんな時間に外出するなんて親父は絶対に許さないはずなんだけど。 番組の取り合いにならずに紅白を見れると思ったのだろう、お袋がこちらに加勢をしてくれたのもあり、 まあ今日くらいはということでそんなに長い時間ではないけど特別に許してもらったってワケだ。 神社の境内に入るともう結構な人だかりが出来ていた。 思ってたよりもずっと参拝客でいっぱいだったので驚く。 去年、日中に麻奈実と一緒に初詣に来たときもたくさんいたけど、この時間帯でも結構混むんだな。 考えてみれば当然かもだが。 「もう人でいっぱいだな」 「うん。もう並んでるみたいだしさ。あたしたちも早く並ぼ?」 「そうだな」 そう言って俺たちは列の最後尾に並ぶ。 「もう5分くらいかな?」 「ん?おお、そうだな」 今年も色んなことがあったなあ。 なんてぼーっと考えながら並んでいるうちに時刻は23時55分を過ぎる頃だった。 隣を見ると桐乃は腕時計で時刻を確認しているようだった。 こいつにとって、この1年はどんな年だったんだろうか。 もう今年も残り少ないしな。ちょっと聞いてみるか。 「桐乃。おまえはこの1年どうだったんだ?」 「え? ……ん~、まあそれなりにいい年だったカモ?」 意外にも控えめな答えが返ってくる。 桐乃のことだからもっとこう、ばりばりリア充的な1年だったとか自身満々に返してくるかと思ったんだけどな。 「ま、あんたのおかげでプラスマイナス0って感じ?」 ……ひ、ひっっでえぇぇ!!?? そんなに俺の存在がマイナスなのかよ?! ぐすん……。 こっちはおまえと少しは仲良くなれていい1年だと思ってたのによ。泣いていいかな……? 「ちょっ?! んもう……なんか変な勘違いしてない??」 「ふえ?」 泣きそうな俺の顔を見てか桐乃は弁解を始める。てゆうか俺はもう情けない声を上げていた。 「ま、まあ年の前半はさ? 留学が失敗しちゃったりして、あんたにも……、」 「と、とにかく良くないこともあったりしたけどさ? こっちに戻ってきてからはあんたのおかげでプラマイ……、ううん」 「……まあ、ほんのちょっぴりは、その、プラスだったからサ? だからそんな顔すんなっての!」 これまた意外なことを言われてぽかんとしてしまう。 あ、あの妹様が、なんつった? お、俺のおかげでプラマイ0って言ったの? 逆じゃなくて? さっきとは反対の意味でまた涙が出そうになる。 「うざっ。だからそんな顔するなっての!」 「お、おう。その、ありがとな」 「ん……。まあ、こっちこそ……?」 珍しく2人して感謝し合う。それだけでも今日一緒に初詣に来て良かったと思う。 そっかそっかぁ。へへ、本当にこいつを連れ戻して来れてよかったな……。 ………………。 「おまえもしかしてまた留学とか考えてるか……?」 「え?」 そういえばこいつ進路とか教えてくれねーし。も、もしかして……?? 「ふぅん……。うぅ~ん。どうしよっかナァ??」 「な゛?!」 俺の心配を裏腹に桐乃は急に悪戯っぽい口調になる。 お、お、おいおい冗談じゃねえぞ?! おまえに逢えないのが嫌で嫌で、そんで俺は……!! 「なぁにィ、あんた? もしかしてぇ? あたしがまたいなくなると思ってんだ?? ひひ」 こ、こいつ、ぜってー楽しんでるだろ! こっちは真剣だってのに! 「ぷっ、あ、あんたってば、ほ~んとにシスコンだよねぇ。なにマジになっちゃってんのぉ??」 さっきからこいつも、俺をからかえてそんなに楽しいのかよ! 「ひ~ひ~、おっかしィ! お腹いたいってば。心配しなくったって別に、……っひゃあ?!」 「ど、どこにも行かないんだな??!!」 思わず桐乃の両肩をガバッっと掴み言い寄る。 「ち、ちょ?! 近いってば! こんなところで、あの……」 「ど、どうなんだよ?」 「ちょっと?! い、痛いからそんなに強く掴まないでよ……」 「あ、わ、悪りィ……けどよ、俺またおまえに逢えなくなると思ったら……」 「こ、こ、こ、こんなところで何言っちゃってんのあんた??! ~~~~ッ!」 俺の無言の訴えに桐乃は半ばやけ気味に言い放つ。 「あ゛ぁあ~~~っもう。分かったってば!! あたしはずっとあんたのそばにいるからさ!」 『『おめでとう!!!!』』 「ひゃっ?!」 「っと?! ……あぁ、と、年が明けたみてえだな」 「う、うん。もう、あんたのせいでカウントダウン逃したじゃん」 「は、はは。とにかく安心したぜ。」 「…………シスコン」 そこかしこからおめでとう、だの今年もよろしく、だのと新年の挨拶が聞こえてくる。 安心したところで、そんじゃあ俺も――――。 「桐乃、あ、…………」 明けましておめでとう。今年もよろしく――――。 喉まで出掛けていたセリフが口をつぐんでなかなか思い通りに発せられなかった。 あ、あれぇ? っかしいな……。 言いたくても、なかなか言えない。そんな感情。 なんていうか、多分きっと俺は照れているのだ。 妹に向かって新年の挨拶をするってことに。 え? えぇ? おかしいな……? 兄妹で挨拶するってのは、こ、こんなにもこっ恥ずかしいことなのか? 俺だけなのだろうか? この感覚、兄妹がいる人にならなんとなく分かってもらえねえかなぁ? 「………………ぁ」 あー……、ダメだ。こいつの顔を見るとどうしても言葉に詰まる。 このオドオドしていて何か言いたげな不安そうな視線で見られてると……。 ……って、オドオドしていて何か言いたげな不安そうな視線だあ?? 「京介―――あのっ『♪め~るめるめるめるめるめるめr』 「ッに、にぎゃああぁぁあああっっ!!!??」 となりから絶叫に近い叫びが響いた。 「めてお☆いんぱくと」のメロディが急に流れ出し、桐乃は慌てて携帯を開く。 あ~あ、油断しやがったなこいつ。外出するんだからマナーモードにしとけっての……。 俺は半ば呆れてしまい、やれやれとため息を漏らしてしまった。 桐乃は恥ずかしそうに周囲を窺う。 初めこそ周囲の人たちの注目を集めてしまったが、それもすぐにおさまったようだった。 ただ列の前の親子連れの小さな女の子が興味を持ったのかじーっと見つめていた。 顔を真っ赤にして携帯の画面とにらめっこをする桐乃。 あ、やべ。可愛い……。 「~~っ。あ、あやせからみたい……うぅ」 どうやらあやせからの年賀メールが届いたらしい。 とりあえず桐乃は着信音の失態はさておき、あやせからのメールには嬉しそうに返信をしていた。 「マナーモード設定しておけ。また来るぞ?」 「……ん。そーしとく」 っと。俺の携帯にも着信が入る。 開いてみると麻奈実からのようだった。 お、おぉう。麻奈実がめーるを打ってやがる……。どれどれ。 『明けましておめでと~。去年はいっぱいお世話になりました。 今年もよろしくね、京ちゃん。今年も桐乃ちゃんとは仲良くしなきゃダメだよ?』 ったく。たりめえだっての。 それにしても、どうせ朝になったらちゃんと年賀状も届いてるんだろうに。 わざわざ年賀メールまで送ってきやがって、律儀なヤツ。 そうやって内心笑いつつ、俺も返信をする。 続いて……、 「お、今度は沙織に……」 「黒いのからも」 『あけオメ。ですわ、お二人とも。今年も1年よろしくお願いしますわね。 こちらも今、黒猫さんと一緒に新年を祝ってるところですわ。』 『また”輪廻の刻”が巡って来たようね。まずはオメデトウと云っておくべきかしら? あなたたちには今一度、輪廻に付き合ってもらう事になりそうだわ……』 「あー……どうやらあっちはあっちで年越しをしたみたいだな」 「うん。そーみたい。……あ、また。今度は加奈子に……、ランちんも」 順番が回ってくるまでの間、俺たちは届いてくる年賀メールの返信をしながら待つ。 そして、前の順番の親子連れが参拝し終え、ようやく俺たちに順番が回ってきた。 「えへへ、バイバ~イ☆」 「うん! お姉ちゃん、ばいばぁ~い」 桐乃は参拝し終えた小さな女の子にバイバイとにこやかに手を振る。 いつの間に仲良くなっていたのか向こうの子もバイバイと手を振り返してくれていた。 そうして、そのまま両親に手を引かれた女の子は人だかりの中に消えていく。 こんな時間帯でも子供が参拝しに来るもんなのな。 「ぃゃ~ん。今の子超可愛かったなぁ……でへへえ~」 「あー……ほらほら、次は俺たちだから」 「分かってるって」 トリップしかけている桐乃を呼び戻し、俺たちも参拝をする。 賽銭箱の前に二人並ぶとまずは桐乃がぺこりとお辞儀をし、鈴から垂れている紐を掴みガラガラと鳴らす。 「はい。あんたも」 「ん」 今度は俺が鈴を鳴らす。 そして2人してお賽銭を投げ込み、再度2回礼をし、パンパンと両手を合わせる。 手を合わせ、お祈りをしながら考えてみる。 去年1年は本当に色んなことがあったもんだ。 殊勝にも去年1年を振り返ると色んなことが俺の頭をよぎっていくようだった。 そして……その渦中にはどうしても今、隣で一緒に手を合わせているヤツの顔が浮かび上がってしまう。 眼を瞑ってても見えるのは、いつもこいつの顔だった。 ふと、気になりチラッと横を窺う。すると、 「――――ッ!?」 「――――ッ!?」 タイミングが良いのか悪いのか、ちょうど桐乃も俺のほうを向き、不意に眼が合ってしまう。 慌てて眼を逸らしお参りに集中しようとする俺。 き、桐乃のヤツ、参拝してる最中に急にこっち見るヤツがあるかよ?! ……、ってまあ、それは俺もだけどよ。 まさか俺の考えてたこと、バレちゃいねーよな? そんな錯覚にとらわれ焦ってしまうが、それも一瞬のことですぐにそんな訳がないと思い直す。 そうして今度こそしっかりと自分の願いを祈り終える。 桐乃はどんなお願い事をしたんだろうな? ガラじゃないけど、まあ、桐乃の願いも……叶うと良いな? 参拝が済んだ後でも桐乃の携帯にはまだメールが届いているようだった。 「まだかかってくんのな、おまえ」 「当たり前ジャン。あんたにはもう来ないワケ?」 「いや、そういうわけじゃ……、っと、ほら赤城からだ」 それに瀬菜からも。そして桐乃へのメールから遅れてようやく俺にもあやせからのメールが届いた。 良かった……忘れられてはいなかった。 ただし相変わらず過激でカワイイ文章だったので内容は割愛しとくけどな。ハッハッハ……。 「うぐぐッ! ぁんの腐れ腐女子めえぇえッ」 …………。 どうやら瀬菜は桐乃にも送ってきたみたいだけど、桐乃に一体どんなメールしやがったんだ……? 歯軋りをしながらキレる桐乃を見て瀬菜の送ってきたメールに戦慄するのであった。 「て、ゆーかさあ! な、なんでどいつもこいつもあたしが京介と一緒に初詣来てる事前提でメールして来んのよ!?」 うっ、確かに……。 別に誰に言ったわけでもないし、そもそも一緒に初詣に行くってのはついさっき決まったことなんだけどな?? そうこうしているうちに再び着信が入る。お次は……? ……お、御鏡の野郎からじゃねえか。 「あぁ、あたしにも御鏡さんからだ」 どうやら御鏡も俺たちには同時に送ってきたみたいだな。本文を読む。 『明けましておめでとう。去年はいろいろとお世話になったね。今年も1年よろしくお願いするよ。』 こいつとも色々あったよなあ。最初はいけ好かねえ野郎だったけどよ。 何だかんだでこいつにも結構お世話になっちまったし。 ま、暇がありゃ今度こいつとも――――、 「ッにぎゃあああぁぁぁぁああああああ!!!???」 となりから絶叫に近い叫びが聞こえた。 って ま た か 。 「ッ? こ、今度はなんすか……?」 「ぁ、ああ、あんたにも来てるんでしょ?! 御鏡さんからのメール!! よく見ろ!」 メール? 今見たばっかで、……あ。 よく見ると本文はまだ続いており改行によって続きの文章が現れた。 『これは僕から2人へのささやかなプレゼントだよ。』 は? なんだそりゃ? さらにメールには一緒に画像が添付されており、俺はつい何の警戒もなしに開いてしまう。と……。 「んな゛?! ッう、うわあああぁぁああああ!!!????」 こ、これって……!!? そこに映し出されていたのは……、 「メ、メルルイベントのライブのときの俺たちじゃねえか!!?」 「あ、あ、あの人。こんなのいつの間に……!?」 それは3ヶ月くらい前のライブのときの画像だった。 そう、つまり……、妹は足元の破れたウェディングドレスで、俺はボロボロのスーツ姿でいるところを。 しかもばっちりしっかりと手を繋いでるところを背後から撮られていた。 最近の携帯って画質パネエなあ……。ふひ。 ……じゃねえ!? あ、あの野郎! こんなもんいつの間に撮ってやがったんだ!? た、確かにあのときは周りの歓声で相当騒がしかったからな。後ろから撮られていても不思議じゃあないか……。 あの時、美咲さんはいい宣伝になるかもって適当なこと言ってたみてえだけど、どうやら効果はあったみたいだな……。 現役のデザイナーに目を付けられるくらいにはなあ!? ちくしょうッ……!! あのとき相当目立ってたんだろうね俺ら……。今更ながら、は、恥ずかしすぎる……。 「新年早々なんてもん送りつけて来てんのよあの人……!」 「ああ、まったくだぜ……」 2人ともしばしの間、それぞれの携帯の液晶に映し出された同じ画像を見つめ、顔を赤くし固まっているのであった。 ※※※※ 年賀メールのラッシュも大分落ち着き、送られてくるメールもちらほらとし始めた頃。 桐乃の提案でおみくじを引こうということになった。おみくじ売り場まで歩いて移動する。 桐乃を見るとさっきから何やらしきりに、何度も携帯を取り出しては開いてみたりしている。 何やってんのかね? まだメールが届いて来るのか? あ、そういえばっと……俺も携帯を開く。 えーっと、さっきの画像を、…………っし、これで完璧。 待ち受け画面の変更を手早く済ませ、いそいそとポケットにしまう。 「なにニヤニヤしてんの? キモいんだけど」 「べ、別にんなこたぁねーよ。おまえだってさっきからなんか携帯何度も取り出してニヤニヤしてたみてーじゃねえか?」 「は、はあ?! んなわけないジャン……?」 「そっかよ」 よくわからんやっちゃな。 とゆうかそこは赤くなるポイントじゃないだろ。 おみくじ売り場に着くと、俺たちはさっそくそれぞれにおみくじを引いた。 おみくじ箱を受け取りそれをがらがらと振って、出てきた棒に書かれた番号を係りの人に告げる。 その番号の示す棚から一枚の紙片が差し出された。同じく桐乃もそれを受け取る。 横を窺うと桐乃の表情がぱあーっといっそう明るくなったのが見えた。 それだけでこいつの引いたおみくじの結果が容易に想像できた。 へっ、流石と言うかなんというか。 さて、俺のはっと……おっ!? ………………へぇ、たまにはこんなこともあるもんだ。 健康運、学業運、金運……順序に眺めていき、そして――――。 …………はんっ、云われなくっても分かってるっつーの――――。 桐乃の方を見る。桐乃もにやにやして嬉しそうにこっちを見ていた。 「ねえねえ、どうだった? ま、あんたのことだからショボいの引き当てたんでしょうケド、ふふん」 どうやら自分の引き当てたおみくじを教えたくて仕方がなさそうだな。 ま、言わなくったってその表情を見てれば分かるけどな。 「桐乃のはどういう結果出たんだよ?」 「ふーん? 知りたいんだあ? しょーがないなあ、見したげる」 待ってましたと言わんばかりにおみくじの紙を見せびらかしてくる。 「へっへ~ん、ほらこれ大吉!」 「お、おまえってヤツは……相変わらず」 「ひひ、まーね。すごいでしょ? ふふん」 まあ、分かっちゃいたけどよ。平然と引き当てちまうんだもんなあ。すげえよまったく。 「余裕の大吉だ。運の良さが違いますよ。ふふ」 なんの声真似だよ……どっかで聞いた事あるような気するけどよ。 思わず苦笑が漏れてしまう。 よっぽど嬉しかったみてえだな。 「で、どうなんだよ? どんなこと書かれてんだ? 見してみ」 「へ? うんまあ、別にいいケド……?」 ? なんで若干顔赤らめるんだよ? さっきまであんなにはしゃいでたってのに急にしおらしくなりやがって、変なヤツ。 「……ほら、これ」 受け取ったおみくじに目を通す。 まずは大きく大吉と書かれた文字が目に入る。それからそれぞれの運勢にも目をやる。 「どれどれ、健康運、何事も心配に及ばず。心の支えによって更に無病息災」 ……、のっけから向かうところ敵ナシってか? 流石にびびるわぁ~。 まあ、こいつが1年元気でいられるってんのならそれ以上に良い事はねえわな。 それに心の支えねえ。こいつの場合エロゲってことか。……いや、それだけじゃねえよな。 それはエロゲであったり友人であったり、そして家族であったり、するんだろうな。 占いといえどもこの結果は素直に嬉しいと思えた。 「学業運、学べばそれだけ伸ばせる時期。無理はせず着実に自分を磨き上げる好機」 「金運、どんどん収入が増えていく見込みあり。また大切な人からの贈り物も期待できる」 っかしいなあ……? 俺のおみくじとこうまでも違うもんかねえ?? はあ、もういいよ。次次。えーと……、 「ね、ねえ? もう良くない? 返して?」 「は? まだ全部読んでねえから待てってば」 「~~~~ッ、あっそ!」 急に何言ってんだこいつ? あんなに嬉しそうに見せびらかしてきたのによ。 とりあえず続き読んでもいいんだろ? あわあわとしている桐乃をよそに再びおみくじに眼を落とす。 「そして恋愛運は……、今年は稀に見る運気の良い年。長年の想いが成就するだろう。 想い人と気持ちが通ずるには時に素直になる必要も。勇気を出して行動するべし」 ……だとさ。ほんと呆れちまうよな。なんだよこのくじ運の良さはよ? 「ホ、ホラ、もういいでしょ! そろそろ返して」 未だに赤い顔をしたままの桐乃はひったくる様にして俺の持っていたおみくじをつかみ取る。 なんか急に機嫌悪くなったか? 相変わらず急だな。なんかしたっけ俺? 「まったく……すげえ良い運勢じゃねえかよ。どれも非の打ちどころがないなこりゃ」 「う、うん。ま、当然っしょ?」 「神様すら味方に付けてんのかね、おまえ?」 いや、これはマジでそう思わずにはいられないぞ。 「ふふん、そうかもね。それにしても――――」 桐乃は何故か自嘲するようなため息をつき、突然俺に背を向けるようにくるっと反対側を向くと……、 「っっあーーあ! ……やっぱり神様にはぜ~んぶ見透かされちゃってんのかなぁ??」 ? なんのこっちゃ。 もう一度振り返ってこっちを見る桐乃は心なしか微かに笑っている気がした。相変わらず赤い顔をしたままで。 「ぷっ、何でもないっての! ばーか」 んべっと舌を出してまた微笑む。 「それよりさ! 次はあんたのも見せなさいよ。」 「今あたしチョー機嫌いいからトクベツに慰めてあげる。感謝しなさいよねこのシスコン」 「まだ見てもいねえのにスゲエ言われようっすね?!」 最初から悪い運勢引き当てたこと前提で話してんじゃねーよ!? 「はあ? あんたのことだからどうせ微妙なの引き当てたんでしょ? あたしと違って」 「だから勝手に決め付けんなっつーの! へっ、大吉を引き当てたのは何もおまえだけじゃないんだよ。ほらこれ見ろよ」 そういって俺の引き当てたおみくじを桐乃の前に突き出す。そう、何を隠そう俺の引き当てたおみくじも大吉だったのだ。 ……珍しいこともあるもんだ。 「嘘、マ、マジで? ふーん? 珍しいこともあるじゃん」 マジでな……。おーおー。びっくりしてるなこいつ。マジで珍しいもんな……。 俺からおみくじを受け取ると桐乃は運勢を順番に読み上げていく。 「ふむふむ。健康運、重い病気にはかからないが油断するべからず。病にかかりしときは近しい人が助けとなる」 「学業、精進すれば必ず成功する。ただし怠ると危うし。……なんかフツー」 大吉のくせに。と桐乃は呟く。 「ほっとけっての。学業運でもっとマイナスなこと書かれてないだけホッとしてんだよこっちは」 だいたいおまえのあり得ないくらいベタ褒めの占いと比較してんじゃねえよ。 大吉たってこんなもんじゃねえの?? おまえのがおかしいんだよ。……多分。 「んーと次は、金運、大きな買い物をするなら無駄遣いするべからず。 収入は望み薄し……あんたってほんとお金に縁がないよね」 いーもん、いーもん! 普段からあんまり使うこともないしな! どーせ今年もお年玉ナシなんて初めから分かってるし! 大体、大きな買い物って何だよ?! 「さ、さあ? プレゼント……とか?」 「そんな相手いねえよ……」 「………………あっそ」 桐乃はなんだか不服そうな顔をしたような気もしたがさっさと続きを読み始める。 「最後は、え、えーっとぉ? れ、恋愛運、ね……?」 「ッ! ……ま、待ち人すぐそばにあり。近しい者からの想いを見逃さないこと。 消極的な先入観は禁物。積極的な行動力が重要。想いは成就する。……か」 読み上げてひと息つく桐乃。 「ま、俺にしてはなかなか良い運勢だろ?」 「ふ、ふーん? まあイイんじゃない? 良かったジャン?」 桐乃は何か思うところでもあるのか俺のおみくじを食い入るように見ていた。 人のおみくじを見ててそんなに楽しいかね? 「……ハイこれ」 「おう」 ようやく気が済んだらしく俺のおみくじを渡してくる。 何か気になることでもあったのだろうかと俺ももう一度おみくじに目をやる。 つっても、気になるようなことは別にねえよなあ?。 ……それにしても、同じ大吉だってのに。この差は何なんだろうな? いやでも良く見ると……。 ………………。 「……ぷっ」 いけね。思わず吹き出しちまった。 「? なに?」 「いや別に。たださ、このおみくじってホントいい加減だよなあ、って」 なんで? と聞き返す桐乃に答えてやる。 「だってよ、恋愛運のところとかよ。見てみろよこれ? どっちのもすげえ良いこと書いてあるじゃねえか?」 「うぇ?! ……ん。ま、まあ、そうみたいジャン? どっちにも成就するって書いてあるし?」 「でも、お、おまえ、俺に彼女が出来るまでは彼氏、作らないんだよ、な?」 「…………うん。まあ」 ちょっとホッとしてしまう。 今度は桐乃が問う。 「あんたも、……あんたも、あたしに本当に好きな人が出来るまでは……彼女、作らないんでしょ……?」 桐乃も、不安そうな眼で問いかけてくる。 「ああ。作らねえよ……」 そのひと言で桐乃もキュッと硬くしていた体の緊張を解いたようだった。 「でも……、」 「ぷっ、……2人とも成就しちゃうんだ?」 「はっ、みてえだな?」 「ふ、ふふ。何ソレ? バカじゃん?」 「ははは、ホントだぜ」 2人してなんだかおかしくって笑い合う。ほんと変な占いだよな? こんなのってあるか? くっ、ははは。 ※※※※ ひとしきり笑いあった後、俺たちはそれぞれのおみくじを木の枝にくくり付けた。 そして、いい加減親父たちも心配し出す頃だろうということで初詣は終わりを迎えた。 「よし、そんじゃあ帰るか」 「うん」 来るときと同じように帰りも二人並んで歩き出す。 「…………京介」 帰り道、桐乃が急に俺を呼び止める。 「ん?」 「………………」 どうしたんだよ桐乃? 顔を覗き見るがその感情は読み取れない。 桐乃も俺の名前を呼んだきり、息を飲み込んだだけで何も言おうとはしない。 ただ――――。 ただ、その表情からは、何か一大決心をしたかのような強い意志が感じ取られた。……そんな気がした。 そして意を決したかのように一度眼をまばたくと、桐乃は少しずつ話を切り出し始める。 「あのさ、あたしはね? さっきのおみくじ。全然信じてない訳じゃないんだよ?」 「そうなのか」 まあだろうな。俺だって信じてないなんて言ってねーもん。 俺がそう思ったのなら桐乃だってそう思うに違いないって思ったよ。 ま、これでも俺たちは兄妹だからな。なんとなく分かってたよ。 「だってさ、もしも……これはもしもの話だよ京介? もし、あたしに本当に好きな人が出来てさ……」 「もしも、その人に告白されたら、さ……あたし嬉しいもん」 「嬉しくて、嬉しくって、きっとあんたのお願い守れそうにないもん。」 「だからきっとOK出しちゃうかも……ううん、絶対にOK出しちゃうと思う」 「…………そっか」 不思議と以前のような焦りは感じなかった。本当に不思議だ。俺はあんなにもこいつに彼氏が出来ることを拒んでたのに。 どうしてなんだろうか? あの日芽生えかけた気付きそうで気付けなかった想い。 それを急激に意識させられてしまう。桐乃、おまえは……。それに、俺は……? 桐乃の吐く息が白い。きっと桐乃は今、俺にとても、とても大事なことを伝えようとしている。 「だからさ、あんなおみくじだけどさ、あたしももう少しだけ……もう少しだけ積極的になってみようって思うの」 桐乃は珍しくたどたどしい口調でそう告げた。俺の眼を真っ直ぐに見つめて。 それってどういう――――……いや、そうじゃねえよな。 慎重に言葉を選んで訊ねる。 「……それを、どうして今俺に言ったんだ?」 「!! それは……――――、抱負、だから」 「抱負?」 「そ。これがあたしの今年の抱負。今年は去年よりももう少し積極的になろうって思ったの」 「だから今京介に言ったの。今年の抱負を」 「そっか」 「……うん」 なるほど……OK。おまえの言いたいことはなんとなく、いや、……きっと俺に伝わった。 今のはきっとヒントだったんだよな? 桐乃は何かを言いかけ、抱負と言い直したんだ。それは確かに抱負には違いない。違いないけれど……。 もう少しで気付けそうなんだ。後もう少し。だからもうほんのちょっとだけ待っててくれよな。 きっとおまえの言いたかった正解を言い当ててやるからさ。 ……だから、だったら俺もこう返すしかないよな。 「桐乃。俺も今年の抱負決めたぜ」 「何?」 「俺も今年の抱負はそれにするわ」 驚いた桐乃は一拍置いてからようやく怒鳴りだす。 「は、はあ?!! なにそれ? あんたあたしの抱負真似するわけ??」 なにこいつ狂ったの? みたいな表情で文句を言ってくる桐乃にしれっと切り返してやる。 「ハア? ちげーし。だっておまえも読んだだろ? 積極的な行動がどうのって」 「だから俺のはおみくじに書かれてた事を実行するってだけだし?」 「なによそれ!?」 「だからどっちかっつーと真似してるのはそっちのほうじゃねーのか?」 「な、な、な……??!」 「ほら、いい加減さみいんだから帰るぞ!」 そう言うと俺は桐乃の手を握りしめ歩き出す。 「な?! ちょっと京介なにす……?!」 「いいじゃねえか! この方が寒くねえだろ?」 「ふ、ふん! ぁ、あっそ!」 それっきりで桐乃は俯いたまま、黙って手を握り返してくれた。 直に絡めあった手と手同士から互いの温もりが伝わって暖かかった。 桐乃の手、小さくって柔らかくって暖かいな。 顔赤いぞ桐乃? そういえばさっき一緒にお神酒呑んだっけ。 俺の顔も真っ赤なのはきっとそのせいに違いないな。うん。 歩きながらさっきの言葉を頭の中でもう一度考える。 今年の抱負。桐乃は、今よりももう少しだけ積極的になる。と俺に告げた。 その、いつか好きになった人に、いつか好きだと告白してもらえるように自分ももっと頑張ろう、と。 俺だってうかうかなんてしてられない。俺だって決めたんだ。 いつか本当に好きになった子に告白するとき、その子にハイって言ってもらえるようにってさ。 いつの間にか俺は桐乃と繋いでいた手を、優しく、そしてより強く握りしめていた。 それに答えるかのように桐乃も強く、しっかりと握り返してくれる。 しばらく歩いていると再び桐乃が立ち止まる。 手を繋いだまま、俺は桐乃の一歩手前で立ち止まり振り返る。 「どうした桐乃?」 「そういえばあたし、あんたに言い忘れてたことがあったんだケド」 「?」 「だから…………えぇっと」 またモゴモゴし始め何かを言いたそうにしていた。言いたくても言えなそうな……。 ――――あ……。 今度こそ桐乃の感情を読み取ることが出来た。 ――――言いたくても、なかなか言えない。そんな感情。 俺も、大きく深呼吸をし、それを言ってやる。 「明けましておめでとう。桐乃、その、今年もよろしくな?」 耳まで真っ赤にしながら俺はそう伝えてやった。 桐乃は驚いたような表情をしていたが、それで踏ん切りがついたようだった。 「ぅ、うん。明けましてオメデト。京介、今年も、よろしくね?」 とびきりの笑顔でそう返事をされて不覚にもドキッとしてしまう。 や、やばい。これはちょっとくらくらする。 ホント、こいつの笑顔って……。 にしても、なんだ。やっぱこいつも照れてたんだな。言い終わったらとっととそっぽを向いちまった。 やっぱ兄妹で挨拶するのって照れちまうよな。俺だけじゃなく桐乃だってそう思ってたみたいだ。 でも、ま、今みたいな笑顔が見られるならまた。また来年も一緒に――――。 そうして新年を迎えたばかりの今日。俺たちは二人一緒に自宅への帰路を歩いていくのであった。 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1509.html
212 :名無しさん@お腹いっぱい。:2012/07/03(火) 20 13 04.86 ID qNilr8Gx0 SS『となりの加奈子』 ※これは過日劇場公開されたばかりの、スタジオアヤセ製作『となりの加奈子』のあらすじとレビューになります。 『千葉の山の加奈子』『天空の白、妹パン』などで評価が高いスタジオアヤセの最新作と聞いて早速劇場へ。 「家族みんなで楽しめる」との前評判に、超満員の劇場は老若男女様々な年齢層の人であふれていました。 特に家族連れが目立ち、たったひとりで見に行った自分がちょっと浮いてるようにも感じました。 そんな中、気になったお客さん発見。 高校生か大学生風のラブラブカップルなんですけど、劇中の高坂兄妹にそっくり! 人目もはばからずキスしっぱなしで、正直こっちが恥ずかしくなっちゃいました。 ・・・つーか、女の方、トモダチの桐乃に似てるっつーか・・・ ま、そんなことあるわけないよね? さて、気を取り直して映画館の中へ。 映画が始まるまでのこの瞬間、やっぱ、すっごく緊張しますよねっ! 館全体が暗くなり、上映が始まります。 早速、楽しげな音楽にのせてオープニングが流れ始めます。 『埋っめっよ~ 埋っめっよ~ わたしは げんき~ 埋めるの~ 大好き~ どんどん 埋めよ~ 加奈子に~ 黒猫~ お兄さん~ 桐乃スレ民~ あやせスレ民も~ 真っ赤に染めて~ 埋め立て中』 ・・・・・・・・・家族向け? それはともかく・・・ はじめのシーンはのどかな農村風景。 高校生になる桐乃は、兄パンと一緒に田舎の一軒家に引っ越してきました。 それは、妹婚という不治の病にかかったお兄ちゃんを、 人目をはばからずにイチャイチャできる家に迎え入れるためでした。 さっそく荷物を運び入れる桐乃。 そこに、村の少女たちがひやかしにやってきます。 「ククク・・・その家には『這い寄る混沌』が住み着いてるのよ・・・」 「いやー、拙者、沙織・バジーナと申します、以後お見知りおきをっ!」 あからさまに不審な姿の二人の歓迎に桐乃は面食らいましたが、 実際、その家で最初に桐乃を迎えたのは、『うへぇ』というえもいわれぬ奇妙な声だったのです。 姿も見えない奇妙な隣人に、さすがの桐乃も少し不安になります。 でも、兄パンと一緒に入るお風呂の中、そんな不安も吹き飛んでいきました。 さて、そんなある日、桐乃は庭で奇妙なモノに出会いました。 『地面から突き出してるアホ毛だけ』です。 あまりにも意味不明で何が起こっているのか全くわかりませんが、桐乃が観察しているとゆっくりゆっくり左右に揺れ、 気が付けば桐乃は、アホ毛の前で眠り込んでしまいました。 桐乃が気が付いた時にはアホ毛は居なくなってしまっていましたが、 とりあえず、桐乃はアホ毛の事を『加奈子』と呼ぶ事にしました。 それから少しして、ふたたび桐乃は加奈子に出会いました。 雨の日の夕方、「様子を見に行く」と言ったお父さんをバス停まで迎えに行く桐乃。 乗ってくる予定のバスにお父さんは乗っていませんでした。 でも、お父さんは言った事は必ず守る人。次のバスには乗ってくるのでしょうか? そうして、バスを待ち続ける桐乃ですが、田舎なので中々バスが到着しません。 そんな中、いつの間にか隣で加奈子がバスを待っているではありませんか! お互いに話しかける事も出来ない二人は、ただただバスを待ち続けます。 よく見ると、加奈子は『コスプレ』と言うのでしょうか?露出の高い服を着て、ずぶぬれです。 可哀想に思った桐乃は、お父さんに渡すつもりだったメルル柄の傘を、加奈子に渡してあげました。 これには加奈子も大喜び。涙まで流して喜んでいます。 そうしているうちに、遠くの方から光が差してきました。 「やっとバスが来た!」そう思うのも束の間、やってきたのはなんと魔法(事務所)のミニバン。 中から現れたあやせたんに首根っこをひっぱられ、加奈子はドナドナされていきました。 加奈子が去ったあと、後に残されたのは、メルルのステッキ。 桐乃はそれを庭に植え、はやくアホ毛が育たないかなと思うのでした。 加奈子とバス停で出会って数日。 中々毛の出ないステッキに残念そうな様子の桐乃。 ある日の晩、うとうとしている桐乃の耳に、奇妙な声が聞こえてきました。 「めーるめるめるめるめるめるめ めーるめるめるめるめるめるめっ!」 慌てて外に飛び出すと、なんとメルルのステッキの周りで、加奈子が踊ってるではないですか! しかも振り付けも完璧! 一緒になって桐乃も踊っていると、加奈子はメルルに変身してしまいます。 たまらず桐乃は加奈子に抱きつきます。 「めっ、メルちゃんかわいいよぉ~~~~ ぐふっ、でゅふふっ!かなかなちゃ~~~ん♪あたしの妹にならない~?」 ・・・正直マジキモイんですが、このシーン。 と、ともかく、メルルコスの加奈子を好きなだけprprして大満足の桐乃。 でも、目が覚めると、あんなにもprprしたハズの加奈子が居ません。 落胆する桐乃でしたが、視界の隅に何かを見つけます。 そう、あのメルルステッキの横に、ちょこんと1本のアホ毛が生えたのを見つけたのです。 「夢だけど、夢じゃなかった!」 大喜びの桐乃。 きっと、あやせたんからの贈り物なんでしょうね。 そんな不思議な出来事が色々とあって、桐乃も村の生活にだいぶ慣れてきました。 そんなある日、お兄ちゃんの幼馴染から連絡がありました。 どうやらお兄ちゃん、妹分が足りなくて禁断症状が出てしまい、村に来るのが遅れるというのです。 桐乃はとっても落胆してしまいますが、人前では出さないように我慢します。 そうしているうちに、これまで一緒に暮らしてきた兄パンがなくなってしまいます。 きっと、寂しくなって、京介を探しに出ちゃったんだ・・・ そう考えた桐乃は、必死に兄パンの行方を追いますが見つかりません。 大事な大事な兄パンなのに、捨てられたりしたらどうしよう・・・ 不安と焦燥でいっぱいの桐乃の目に、庭に生えたアホ毛が飛び込んできます。 「お願い、助けて!兄パンが無いのっ!」 桐乃の必死の思いが通じたのでしょうか。 「うへぇ」の声と共に、加奈子は穴から飛び出し、魔法のミニバンを呼び出しました。 そして、すぐに兄パンの所まで桐乃を連れて行ってくれたのです。 兄パンを見つけて安堵の表情を見せる桐乃。 それを見ていたミニバンの中のあやせたんは、諦めたような表情をすると、 再び桐乃をミニバンに乗せてひとっ走り。桐乃をお兄ちゃんのところに連れて行ってくれました。 窓から中を覗き込むと、妹パンに顔を突っ込んで悶えている桐乃のお兄ちゃん。(キモすぎるんですが) 桐乃はお土産に、自分の今はいていたパンツを部屋に投げ入れると、 あやせたんと一緒に帰っていくのでした。 村に戻ると、村の娘達が心配して出迎えてくれます。 三人と1枚の楽しそうな表情を見ながら、 加奈子はひっそりとあやせたんに埋められているのでした・・・(終) エンディングは村に来る事のできた桐乃のお兄ちゃんと桐乃のイチャイチャ生活の様子が流れる中、 二人の今後を祝福するような歌で〆られました。 さて、すさまじいストーリーの映画でした・・・ でも、結構一般受けはいいみたいで、子供たちの楽しそうな笑い声が周りから結構聞こえていましたし、 後半は桐乃の気持ちに感情移入して、泣き出す子まで居ました。 本音を言うと、マジキモ過ぎるブラコンストーリーだったんですけど、 人間の本質的感情である『愛』を見事に描ききったという点では評価できると思いました。 それと、かなかなちゃんマジかわいい♪ わたしのトモダチにも加奈子って娘が居るんだけど、あんなに可愛かったらなー ただ、あの、メルルステッキの周りで踊ってるシーン。 あの変身シーンあざとすぎ。っつーか、あれ、いいの?一般向けで? まあ、あんまり文句言う人も居ないようなので、魔法少女の定型として受け入れられてるのかもしんないですけど。 話はちょっと飛んでしまいましたけど、全体としてはとっても楽しかったです。 音楽のレベルも高く、絵もずっと綺麗でした。 そして、人間の普遍的な気持ちが前面にでてるこの作品、どんな年代の方にもオススメできますし、 かなかなちゃん目当てのオタクの人でも楽しめるかと思います。 きっと、かなかなちゃんの不思議な魔法と、桐乃の優しい気持ちが 心の中に残ってくれると思います。 れびゅあー:らん End. ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/59.html
819 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/15(水) 12 09 19 ID OTDg9BxZ0 [4/6] 「そいつを…兄貴をあたしから奪うな!」 「なっ―――!?」 「…あら、貴女に何の権利があってそんなことを言う口があるの?」 「あ、あたしはそい…あ、兄貴の妹だし…!」 「妹なら兄の恋路を邪魔しても構わないというのかしら」 「お、おい。黒猫…」 「先輩は黙ってなさい それでどうなのかしら、桐乃ちゃん…?」 「あ、あた、あたしのほうが、兄貴のこと大切にする…! あんたよりもずっと……!」 「おま……っ!」 「フッ、大切なんて言葉、口だけでは何とでも言えるわ 貴女は今までの兄に対する行動を顧みたことがあった?」 「そ、それは……」 「本当に貴女は、貴女の兄を大切にしていると言えるの? それにそんな勢いだけの言葉で説得しようだなんて、腹で茶を沸かすレベルというものだわ」 「……………う」 「―――――――っ!!」 「貴女はただ兄に依存してるだけ そして、今の貴女はおもちゃを取り上げられて駄々をこねるお子様のようなものよ そんな貴女に何が言えるというの?」 「……………」 「―――――――ないの」 「え…?」 「…わかんないのっ! あんたや地味子が兄貴と一緒にいるとなんか腹立つし…っ! 彼女みたいなデートすれば二人で楽しめると思っても妹扱いされただけで腹立つし…っ! 一緒にいたいって思っても上手くいかない…っ! …あんたみたいに兄貴を楽しませてあげることなんて、できないっ!」 「桐乃……」 「でも、あたしは兄貴と一緒にいたい…っ! 妹とか彼女とかそんなのわかんない、けどっ!」 「…………兄貴が…好きなの……もう離れたく、ないの…!」 「あ……………」 「ふぅ…やっと素直に言えたのね」 兄貴解凍中 「…黒猫」 「なにかしら」 「俺、やっぱとんでもないシスコンらしくてさ …せめてこいつにちゃんとした彼氏ができるまでは誰かと付き合うとか、そういうことは俺にはできないみたいだ」 「………」 「それに…偽とはいえ御鏡追い出しちまったんだから最後まで面倒見てやるのが兄貴の…俺の務めだと、思う」 「だから…すまん」 「…そう ま、貴方ならそう言うんじゃないかと思っていたわ」 「……すまん」 「…そこまで謝らなくても結構よ でもあなたの呪いは解けないわ 私はあなたも、…あなたの妹も諦めたわけではないもの」 820 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/15(水) 12 10 12 ID OTDg9BxZ0 [5/6] 「…ねぇ」 「…なんだ?」 「あいつのこと……本当に良かったの?」 「……聞いてただろ 彼氏ができるまでは、面倒みてやるよ」 「……ずっと、できなかったら…どうすんのよ」 「できなかったら……、っておまえ…」 「私にか、彼氏ができなかったら…どうするワケ?」 「…最後まで面倒見てやるって言っただろ それが俺の、務めだ」 「………………キモ」 TRRRR...TRR 「…………もしもし、…何かしら」 「………」 「…いたずらなら切るわよ?」 「……………ごめん、なさい」 「……貴女にも、謝られる必要なんてないわ」 「でも、あたしあんたに…っ」 「言ったでしょう 先輩も、………貴女も諦めないって」 「………」 「…私は、先輩のことも、貴女のことも……同じくらい好きよ」 「……っ」 「………それじゃ、切るわね」 「あ、あたしもっ…!」 「…あたしも、あんたのこと…好き、だから」 「……そう、…ありがとう」 821 名前:名無しさん@お腹いっぱい。[sage] 投稿日:2010/12/15(水) 12 11 28 ID OTDg9BxZ0 [6/6] 「……また休日の朝からエロゲーやってんの?」 「おまえが今日中にコンプしろとか言ったんじゃねぇか!?」 「あー、そだっけ?」 「昨日だよ!? 昨日の夜いきなり俺にエロゲー渡して言ったんデスヨ!?」 「う………い、色々あって忘れてただけだっての!」 「あーへいへい で、その休日の朝っぱらエロゲーやってるお兄様になんの御用でしょうか」 「お兄様って…キモ……バカじゃん?」 「泣くぞてめぇ!」 「ど、怒鳴らなくてもいいじゃん」 「はぁ…、で何の用だ?」 「あ… きょ、今日さ暇…なんだよね?」 「おう。エロゲー以外にだけどな」 「な、ならさ お母さん達もいないし… 外にご飯食べに行かない?」 「ん、あー……二人で、か?」 「う、うん…」 「……行くか」 「そ、それじゃ準備してくるから、ちょっと待ってて!」 「…おう」 「言っとくけど、家族で外食じゃなくてちゃんとしたデートだからね!」 「な―――――――っ」 「行こ、兄貴」 -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/618.html
960 名前:【SS】?[sage] 投稿日:2011/04/26(火) 21 34 06.47 ID NgMkDOBaP [10/13] オホン、俺は高坂京介。 今日はお前達に言いたいことがあってこの場を借りている。 何を畏まってと思うだろうがどうか聞いてほしい 何を聞いてほしいかというとだな、お前達(スレ住人)は重大な勘違いをしているということだ。 お前達はいつもこう言っているだろう「桐乃はかわいい」と、「きりりんかっこいい!」と。 だがそれは間違ってる!いいかよく聞けよ? あいつはなあ、人生相談と抜かしながら寝ている俺を馬乗りでビンタして起こすようなやつだぞ? なに?「おやす39゛ーグー兄貴に馬乗りカワイイ」だと?いやいやいや、俺の身にもなれって、な? お前達だって気持ちよく寝ていた時に無理矢理起こされるのは嫌だろう?嫌に決まってる。 は?じゃあそのまま妹の相談にのったのは誰だよって?う、うるせえ! い、今はそれは関係ないだろっ。 そういうわけだから、あいつがかわいいってのは間違ってるんだ。 ま、まあ、見てくれだけは?その辺のやつに負けちゃいないし、礼を言う時ぐらいは可愛いと思わなくも…… 39兄貴って言われた時は驚いたがあの時の桐乃はわりと…って違う! 別に俺はそんなこと思っちゃいないぞ?今のは気の迷いだ。いいな?勘違いするんじゃねえぞ? はい?そんな39と言うだけで驚く兄貴へ照れ隠しに怒鳴られたりするんだろうって? 怒鳴ってるのはあいつが怒ってるだけじゃねえか。照れ隠しとか……なあ? でもまあ……桐乃がすげえってのは認めるさ。いっつも頑張ってるのは知ってるしよ。 あいつは勉強もエロゲもサク39こなすし、時間の使い方が上手いんだろうな。その辺はかなわねえって思うさ。 そんなあいつを俺は尊敬してるところもあるし……これは絶対に桐乃に言うんじゃねえぞ? ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 一方その頃…… デュフフ、今日は兄貴はなんか誰かに言いたいことがあるって家にいないし、 お父さんもお母さんも出かけてるし、兄パンゲットするには今しかないよね~。 さて、兄貴のタンスを39るか。 ふんふん~♪あたしにとって兄パンの中は39チュアリ(サンクチュアリ) ~♪ 腹ポテENDで39入りはあたしの夢なの~♪生まれる京介との39は強いインブリード~♪ ああ!ダメ!ダメだってば兄貴!兄貴のリヴァイア39んかくんかしろってあんたどんだけ変態なの!? で、で、でもまあ?普段お世話になってるし?それぐらいなら…… ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ……わかった、わかったよ。認める。桐乃は可愛い。桐乃はすごい。桐乃はかっこいい。 確かにそうだな。そうだとも、あいつよりすげえやつなんて少なくともそうそうはいないさ。 シスコン乙?うるせえよ、悪いか!えーえー、俺はシスコンですよ! 妹が大切で大切で心配でしかたねえよ!わかったか! ということで、だ。そういうことだからお前達は桐乃に近付くんじゃねえぞ! あん?よく聞こえなかったって?誰の、何に近付くなっていったって? わかった。もう一度だけ言ってやろう。 耳ほじってよく聞きやがれ…… これ以上、俺の! 桐乃に!! これ以上近付くな!! 以上! これで聞こえたよな?わかったらもう絶対に近付くんじゃねえぞ ……な、なんだよおまえら、何をそんなにニヤニヤして……!? ちょ、ちが!? いや、妹だ妹!さっきのはただいい間違えただけで! は?もうお前ら結婚しろってアホか! なんでそんな結論に……おい、そこのお前も、そっちのお前もそのそのニヤニヤ顔をやめろ! くそ!お前らいい加減に………… 963 名前:【SS】?[sage] 投稿日:2011/04/26(火) 21 34 45.67 ID NgMkDOBaP [11/13] 「ただいま……」 「あ、お帰り兄貴」 「桐乃……」 「?あんたどうしたの?」 「桐乃ーーーー!!」ガバア! ダキツキ 「はへえ!?」 「桐乃!お前は俺が絶対に守ってやるからな!」 「え!?う、うん」 「だからずっと俺の傍にいろ。いいな?」 「う、うん。わかった………うん?」 「よし。それならいいんだ。んじゃ桐乃、俺部屋もどるわ」 「うん……?」 「えっと………あれ?」 -おわり- -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/731.html
162 名前:お医者さんごっこ【SS】[sage] 投稿日:2011/05/25(水) 07 23 54.93 ID uiOJ5m5SO [2/2] 「…それでは、次のかた、どうぞー」 「はい。桐乃、実は……」「きりのせんせいってよばなきゃダメなの!」 「…はい。桐乃先生」 桐乃がお母さんに「お医者さんなりきりセット」を買ってもらってから、 僕は毎日のように桐乃のお医者さんごっこにつきあわされてる。 もうそろそろ他の遊びにきょうみを移してほしいんだけど、桐乃はなかなか僕を放してくれない。 「高坂きょうすけさん、先生の話を聞いてますか?」 「…はい、先生」 桐乃はやたら気合い入ってるから遊びなのに気が抜けない。 桐乃先生は玩具の聴診器や体温計を当てたりして僕の検査をしている。 「おやおや、きょうすけさんは病気みたいですね。きょうすけさんを治すために、ちゅうしゃをします。」 「ええっ、注射ですか?」「ちゅうしゃはいやですか、そうですか。」 なぜかニコニコしながら話す桐乃。 「じゃあ、目をとじてください。先生がいいというまで絶対に目をあけないでください」 僕は言われた通りに目を閉じる。すると、ほっぺたになんだかやわらかいものが触れた。何だろう? そっと目を開けてみると、目をつぶった桐乃が、僕のほっぺたにキスをしていた。 「うわあ!」 「もう、目をあけちゃダメでしょ!」 「だってキスなんて…」 「お兄ちゃんがちゅうしゃがいやだっていうから、『しゃ』をぬかして『チュウ』をしたの!」 いきなりなぞなぞ本みたいなことを言いだす桐乃。 「おかしいなあ」 「何がおかしいんだよ、桐乃?」 「せっかくあたしがチュウしてあげたのに、お兄ちゃんがお熱でてきちゃったみたいだもん」 それはいきなり妹にキスされたからだよ、桐乃… 「じゃあ、お兄ちゃんのお口にチュウをしてみましょう♪」 「それはダメ!」 「どうしてダメなの??」 「ダメったらダメなの…先生、僕治ったみたいだからもう遊びにいきます。それじゃあ」 何だか恥ずかしいので僕は逃げることにした。でも… 「まちなさい、まだチュウが終わってないの!」 こうして僕と桐乃は、今度は鬼ごっこをするはめになったのだった…… ※※※ 「加奈子にしては、かわいい作風だね。どんな心境の変化なの?」 あやせが聞いてくる。加奈子がこういう話書いたら変だっつーのかよ? 「んー、こないだブリジットのごっこ遊びにつきあわされてョ。そん時の体験を元ネタにしてみたわけ」 「へえ、やさしいんだね、加奈子お姉ちゃん♪」 「ち、ちげーし…これは、付き合ってやんねーと、あのガキ泣きやがるから…仕方なく遊んでやったワケ」 「ふーん、その割には『それにしても、このかなかな、ノリノリである』って感じに見えるんだけど」 うへぇ、この流れムズ痒いんだよナ、話をそらさねーと… 「それはそーと、あやせもSS書いてるんだろ?どんな話か見せてみろよー」 「わ、わたしはまだ書き途中で…」 「いーからいーから……ん、あやせも『お医者さんごっこ』をネタにしてんのか……」 ※※※ 「京介先生、お願いです!あたしにお注射して下さい! あたし、京介のお注射が欲しくて欲しくて、もう身体が疼いてたまらないのォ…」 「よく聞こえなかったから、もう一度言ってくれないか?」 「もう、京介のイジワル…お願いです、あたしに、京介の極太リヴァイアサンを、ください……」 ※※※ 「…あの、あやせさん、桐乃スレでは、もっとソフトな作風にしたほうが…」 「こ、これはエロパ…いや、なんでもない それはそうと、加奈子。これは見なかったことにしてもらえないかなあ? お互いの平和の為に」 …ホントは、もっとあやせにイロイロ言ってやりたかったケド、光彩の消えた目で脅迫されたから、仕方なくこの件はなかったことにしてやった。 それにしてもあやせェ…… -------------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1771.html
先に明かしてしまうと、これは俺が見た夢の話である。 朝になって目覚めた瞬間――幻となって消えてしまう、泡沫のような物語だ。 拍子抜けしてしもらって構わない。 なんだ夢かよ、と。 まどろみから醒めてしまえば、何もかもなかったことになってしまう、意味のない虚像。 ただし―― 夢の中の俺にとっては、いまこうしてここに居る俺の方こそが、夢なのかもしれないが。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ふあ……なんか、とんでもねー夢を見た気がする」 カーテンの隙間から差し込む朝日を浴びて、俺はいつもより少し早く目を覚ました。 ベッドの上で、今しがた見たおぼろげな夢を思い浮かべてみるが、指の隙間から零れる砂のよう に記憶から抜け落ちてしまう。 「まぁ、夢なんてこんなもんだよな」 独り言を呟き、俺は身体を起こす。 今日は世間一般で夏休みとなっている八月の最後の日曜日だ。 とっくの昔に社会人となった俺にとって、貴重な休日の一日である。 大きな伸びをし、ベッドを抜け出した俺は、洗面所で顔を洗いリビングへと向かった。 「あ、京介おはよ」 「おう、おはよう」 リビングに入ると、いつものように出迎えてくれる俺の妹。 俺たちは数年前、結婚式を挙げ、いまは夫婦として暮らしている。 「今日はあんた一人で起きれたんだ」 「まあな、ちょっと変な夢見ちまってさ」 「どんな?」 「起きた途端に忘れちまった」 「ふーん、どうせスケベな夢でも見てたんじゃないの?」 「ちげーよ!」 「ま、そうゆーことにしといてあげる」 桐乃は俺の釈明を聞こうともせず、キッチンに戻り朝食の支度を再開する。 相変わらず人の話を聞かないヤツだな、こいつは。 「おかーさん!おなかへったー!」 「ふひひ、へったへった」 「はいはい、ちょっと待ってねー」 朝飯の催促をしている悪ガキと、兄の真似をしている天使は、俺の愛する子供たちだ。 そんな孫を温かい目で見守っている親父とお袋。 ここにあるこの光景は、俺の選んだ物語であり、俺が望んだ未来そのものだ。 こんな平穏な日常があと何十年か続いて終わるなら、俺の人生は誰にも負けないくらいの、いい 人生だった――って、胸を張って言えるに違いない。 ――そんな穏やかな午後、俺と桐乃は久しぶりに二人きりのデートを楽しんでいた。 親父たちの好意に甘え、子供の面倒を任せて俺たちは花火大会に来ている。 手の掛かる子供が二人もいると、夫婦での時間がなかなか作れないのだ。 「うわぁ……めっちゃ混んでんなぁ。結構早くに来たってのに」 「ちょっとー、なんとかしてきてよ」 懐かしいフレーズを口にした浴衣姿の妹が、実年齢より十歳以上幼く見えたのは俺の気のせい ではないだろう。 実際、桐乃は二十代後半にさしかかったというのに、あの頃とまったく変わらない美貌を保ってい る。 「へへっ」 「なにニヤニヤしてんの?超キモイんですケド~」 「いや、あの頃と変わんねーなって思ってよ」 「それって、あたしが綺麗だから見惚れてニヤニヤしてたってこと?うえっ、きっもーい」 「おまえが相変わらず生意気な妹だなってこと」 「なんですってぇ~ッ!?」 短気なところは変わってもいいのに。 相変わらずノリのいいヤツだ。 「まあ待て桐乃、怒ってる暇があったらさっさと場所確保しに行こうぜ」 「あっ、そうやってまたごまかす気だ」 さすがに何年も連れ添っていると俺の行動パターンも筒抜けである。 ここで言い争っても時間がもったいないので、俺は桐乃の手を掴み歩き出す。 「ほら、いいから行くぞ」 「ちょっと、引っ張んないでよ……もうっ」 早めに来た甲斐があり、無事にそこそこいい場所が取れた俺たちは、かき氷を食べながら花火 大会が始まるのを待っている。 出店は後で回ればいいだろうという考えだ。 かき氷をつつきながら、気付けば俺はこんなことを口にしていた。 「なあ、桐乃」 「ん?」 「俺たちがもし、本当に『血の繋がった兄妹』だったら――今頃どうなってたんだろうな」 「……それは」 俺の突然の質問に驚いた様子で、桐乃は目を丸く見開く。 自分でも何故こんなことを聞いたのか分からない。 昨夜の変な夢のせいだろうか。 桐乃はかき氷から手を止め、しばし考え込んでから、こう答えた。 「――うん、少なくとも今みたいな関係じゃないことは間違いないよね」 「ま、そりゃそうだよな」 考えるまでもないことだ。 俺たちが本当に血の繋がった兄妹だったら―― 結婚だってできないし、そもそも付き合ってもいないはずだ。 現実はエロゲーと違って、血の繋がった兄妹で恋愛をするなんて有り得ない。 「いきなりどうしたの?」 気付けば、桐乃が不思議そうな顔で俺の顔を覗き込んでいた。 「なんでもねーよ」 俺はごまかすように妹の頭に手を乗せ撫でてやる。 この話はおしまい、という意味を込めていたことを桐乃が気付いてないはずがない。 「あのさ……」 「どうした?」 「実はあたしも考えたことあるんだ。もし、あたしたちが本当に血の繋がった兄妹だったらどうなっ てかなって、さ」 「……そっか」 「本当の兄妹だったとしたら、あたしがどうしてたか……聞きたい?」 桐乃は真剣なまなざしで俺を見つめ、尋ねてくる。 どうやら、桐乃は俺に聞いて欲しいようだが……俺は少し考え、こう答えた。 「いや、聞かない」 「……ふうん、あっそ。ならもうアンタには絶対教えなーい」 「なに怒ってんだよ」 「べつに怒ってないし」 俺の返答を聞いた桐乃は、プイ―っとそっぽを向いてしまう。 やれやれ、機嫌損ねちまったな。 でもな……俺たちが本当の兄妹だったとして、桐乃がどうしてたのか――なんて、怖くて聞けるわ けねーだろって話だ。 「……あのな桐乃、もしもの話なんてなんの意味もないだろ?」 「ふーん、あんたにはそうなんだ?」 「おう、俺はいまここにある現実がめちゃくちゃ幸せなんだから」 俺はそう言って、桐乃の肩を抱き寄せる。 ふわりと甘ったるい独特の匂いが鼻をくすぐる。 「あっそ……ならいいケド」 「おうよ」 こてん――と、俺の肩に頭を預けてくる桐乃。 そして、ボソッと呟く。 「……あたしも幸せだし」 「知ってるよ」 いい雰囲気の中、ドーンッ――っと、大玉の花火が夜空を彩った。 「あっ、始まったね」 「……始まったな」 桐乃の様子を窺うと、吸い込まれるように夜空を見上げていた。 花火に照らされた横顔はいつもより艶っぽい。 「……きれい」 「お―――だな」 おまえの方が綺麗だよ――なんて、こっぱずかしいことを口にしそうになった俺は、顔が熱くなっ てきて慌てて桐乃から視線を外した。 代わりに夜空を見上げると、まん丸い大きな花火が広がっている。 「まるで桐乃の顔のようだな」 「なんか言った?」 「なんも言ってねーよ」 ――そして花火大会も終わり、俺たちは人が少なくなってきた出店を回っている。 「わたあめとリンゴ飴は買ったし、後はどうする?」 「ん~、後はゆうちゃんにメルルのお面と~、りょうちゃんは何がいいかなぁ~♪」 涼介と優乃へのお土産のため、なんて言いつつ、思いっきり楽しんでるところがコイツらしい。 「はやくしねーと出店も閉まっちまうぞ」 「わかってるって~!ふひひっ!」 「ったく、やれやれ……」 子供に戻ったようにはしゃぐ桐乃。 それを見て苦笑する俺。 「おまえらしいよ」 俺は妹の頭に手を乗せて、優しく撫でる。 掌に伝わる愛しい手触り。 そのぬくもりは、紛う事なき本物だ。 決して夢幻などではない現実だ。 高校を卒業し、大学に入学し、就職活動に奔走し、生涯の伴侶を得、子供を授かった。 『俺』が『妹』と歩んできた道程は、振り返ればそこにある。 昨夜夢に見た、いまは遠いあの頃。青春の直中にあった、あの時の俺。 『彼』が歩んでいく人生は、果たして俺と同じものだろうか。 それでも――きっとなんとかするんだろうさ。 暖かな時間が流れる中、俺はふと、そんなことを想うのだった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ふあ……」 カーテンの隙間から差し込む朝日を浴びて、俺はいつもより少し早く目を覚ました。 「あっちぃーな……」 俺の部屋にはエアコンがないので、八月頃は“基本的に”毎晩暑さと戦っているのだが、昨夜のよ うな熱帯夜は特にキツイ。 寝汗でシャツが貼り付いちまってる。 うげっ……ぱんつまでぐっしょりだ。 「とりあえず着替えに行くか」 ――脱衣所で汗を拭きながら、俺は昨夜見た夢の内容を回想していた。 「義妹ね……エロゲーじゃあるまいしよ」 桐乃にも義妹に期待するなって言われたしな。 そりゃ――義理の妹だったら、いま俺が抱えてる問題なんて一発で解決して全部上手いこといく んだろうなーって、考えたことはあるけどさ。 そんなものはエロゲーや夢の中だけの話だ。現実では有り得ない。 「つーか、エロゲーといやぁ……」 汗を拭き終わり、部屋から持ってきたぱんつを手に取りながらふと、俺は考えてしまった。 エロゲーだったら脱衣所は間違いなくイベントCGが発生する場所だろう。 そうだな、例えば、実は桐乃が先に朝風呂に入ってて、タイミングよく風呂場から出てくる――そん な感じのイベントが発生する場面のはずだ。 「なんて、な――」 妄想をやめて手に持っていたぱんつを穿こうとした瞬間、突然ガラッ―と風呂場の方……ではな く、脱衣所のドアが開かれた! 「あ……きょうす」 「!?き、桐乃!?」 「なっ――――な、ななな、なっ!」 桐乃は大きく目を見開いて硬直している。 いやいや、このシチョエーション、どう考えても逆だろッ!? 俺が桐乃に裸を見られるイベントCGとか、そんなイベントは望んでないっての! ……ああ、なんか裸エプロンを要求される夢を思い出しちまったぜ……。 俺は、あやせがよくやる恥じらいのポーズになり―― 「……そ、そんなにまじまじと見るなよ、えっち」 「は、ハアアアアアアアアアアアアアアア!?ぶ、ぶぶブチ殺されたいわけ!?ってか!女の子に っ、そ、そんな汚らわしい物見せつけといて、あんた、朝っぱらからハダカで何してたわけ!?」 「俺はただ起きたら汗かいてたから着替えてただけだ。それに、脱衣所は服を脱ぐとこだし、確認 もしないでいきなり入ってきたのはおまえだろう」 「そ、それはそーだけど!」 「おまえこそ、朝から風呂に入る様子でもないのに、脱衣所に何しに来たんだ?まさか……」 「そ、そんなの深い意味ないって!」 「そろそろ服が着たいんだが」 「勝手に着ればいいでしょ!」 桐乃は赤鬼のような形相で出て行ってしまった。 この日、俺のぱんつが『また』一枚減っていたのは、別の話である。 ――朝のやり取りから時間は流れ、夕方になった。 夏休みも残り僅かとなった八月最後の週。夏の締めくくりということで、俺と桐乃は花火大会に来 ている。 「今年も人多いな」 「そっか、あんた去年はアイツと花火デートしてたんだっけ?ねぇ、京介ぇ?どうだっけぇ?」 「ぐっ…………!」 浴衣姿の妹が目を細めながら聞いてくる。 知ってるくせにわざと言ってやがる……人の傷口に塩を塗りこむような真似しやがって! こいつは鬼か!鬼なのか!? 「そ、その話はやめようぜ!」 「やだ」 「なんでだよッ!?」 ここで追求を止めないとか、この女どこまでドSなの!? 「……あんたが去年あいつと回ったルートと同じとこ回るから。ほら、さっさと教えなさいよ」 「あ、ああ、なるほど……黒猫と同じことをしてくれるってことか?」 「ふん、まあ、そーゆーこと」 もしかしなくても去年の俺に嫉妬してるらしい。俺の妹様にはこういうことが、ままある。 俺は少し考え……仕返しの意味を込めて、こう言ってやった。 「よし、桐乃。思い出したぜ」 「ん。で、どこ回ったの?」 「出店を回る前に、俺たちは手を繋いだんだ」 「……えっ?ホントに?」 まあ、若干嘘だけどな。 しかし、いいことを思いついた俺は、ダメ押しをする。 「おう。出店回ってる時も、花火見てる時もずっと繋いでたな」 「で、でも、あたしたちは普通の兄妹だし……人前で手、繋ぐとか……」 「おまえが言い出したんだから、いまさら嫌なんて言うなよ――ほら、手繋ごうぜ」 そう言って俺は妹に左手を差し出した。 「……うん」 桐乃はおずおずと手を取り、握ってくる。 俺はその手をしっかりと握り返す。 「じゃあ、行くか。まずはメルルのわたあめ買って、お面買って、ヨーヨー釣りして、他にもいろいろ して、花火見て……それから――」 「それから?」 俺は桐乃の耳元で囁く。 「帰り道、キスをするんだよ」 「―――――」 桐乃は一瞬で顔が真っ赤になり抗議してくる。 「ッ!は、はあ――ッ!?う、嘘吐くなっての!」 「おいおい、手を振り回すなっての」 手を繋いでるもんだから、桐乃が手をブンブン振り回す度に、俺の腕まで引っ張られてしまう。 「あ、あんたが嘘吐くからでしょ!」 「どこが?」 「あたしとしたキスが初めてって言ってたじゃんっ!」 「あ……そうだっけ?」 一発で見抜かれてしまった。 「あんた、そんな嘘吐いてまで妹とキスしたかったワケェ?」 「兄妹なんだから別にいいだろ?」 「ふうん……じゃあ、帰ったら人生相談、する?」 「へっ――望むところだ」 俺たちは血の繋がった兄妹で、それが俺たちの現実だ。 恋人として付き合っていた時もあったが、いまは普通の兄妹としてやっている。 あの時アキバで交わした約束は――俺たち『二人だけの秘密』である。 夢の中のあいつは心配してたみたいだけど、俺は桐乃を幸せにすると誓っている。 もしも、話す機会があるのなら『あいつ』に俺の決意を伝えたい。 『実妹エンドやってやるぜ』――ってな。 ―おしまい―
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1796.html
SS『ある朝の日常2』 1.ぎゅっとやさしく抱きしめてあげた 2.起こしてしまわぬよう、そっと布団を抜け出した 3.問答無用で、布団から蹴りだした またか。 と言わないで欲しい。 まただ。 としか答えられない。 これが、この前まで普通の高校生だった高坂京介の、最近の朝の日常である。 もう選べる選択肢なんて、ないんだがな、、、、。 「おーい、桐乃さーん、、、?」 、、、反応が無い。 「今日はホントに胸を触っちゃってもいいんですかー?」 、、、やっぱり反応が無い。 どうやら、今日はホントに眠っているようだ。 、、、いやいや、やんねーよ、マジでマジで。 、、、とは言え、どうしたもんかな、、、。 仕方なく、桐乃の寝顔をぼんやりと見つめる。 我が妹ながら、改めて、こうやって、近くでじっと見ると、あれだな、そう、何て言うか、うん、そんな感じだ。 、、、我ながら意味不明だが、何を考えたかは、気にしないで欲しい。 というか、雑誌に載っている可愛いモデルが実際の妹で。 その妹が、朝、自分の布団に入ってきて、となりで寝ている。 、、、客観的に見たら、すごい状況だよな、これって。 そんなことを考えながら、じっと桐乃を見ていると、 「ん、、、。」 徐々に桐乃の目が開いていく。 「よ。おはよう。」 爽やかに挨拶する。 「、、、ん、、、おはよ、、、う?」 「!!!」 「ぎゃーっ!」 がばっと布団をかぶって顔を隠す。 なんでだよ。理不尽すぎるだろ。今回は、何もしてねーぞ、俺。 ばっ、と、目だけ布団から出して、真っ赤になって涙目で睨んでくる。 「い、いつから見てた!?」 「ん?ずっとだけど?」 「~~~~~~~!」 また、がばっと布団をかぶって、布団の中でバタバタしている。 俺の布団、どんどんめちゃくちゃになってるんだけど。 と、見ていると、突然、ピタッ、と動きが止まる。 「き、桐乃?」 声をかけてみると。 こちょこちょ。 ぐっ!くすぐり攻撃かっ! こちょこちょこちょ。 「おい、ばか、やめろって!」 「ふんっ!お返しだっつーの!」 「このっ!」 こっちも仕返しだ、とばかりに、布団の中に手を伸ばす! ふにょ。 「え?」 「ぎゃーーーっ!!!」 布団の中から絶叫が聞こえる。 い、今のは、もしかして、、、。 げしっ。 痛ぇ!布団の中でケリを食らった。 「ど、どこ触ってんのよっ!」 「ど、どこ触ったんだ?」 「ど、どこだっていーでしょっ!」 おい。会話になっていないぞ。 「エッチ!ばか!すけべ!変態!どエロ!死ね!こっから出てけっ!」 布団にくるまったまま、ぎゃーぎゃーと、まくしたてる。 「今のは俺が悪いんじゃないだろ?それに、ここは俺の部屋なんだが?」 「悪いっつーの!いいから出てけっ!」 「はいはい。」 起き上がって、部屋から出て、扉をパタンと閉める。 なぁ、今回、俺は悪くないと思うんだが、どう思う? Fin ・・・。 ・・・・・。 ・・・・・・・・・。 くんかくんか。 ふひっ♪ ----
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1826.html
SS『とある午後の昼下がり』 「ねぇ、今日の午後に、あやせが用事で家に来るから、あんた、どっか行っといてくんない?」 「なんでだよ!」 いきなりだが、あいかわらず理不尽な妹様である。 「あんた、あやせのことフッたんでしょ?気まずくないワケ?」 ああ、そういう意味か。一応、こいつなりに気を使ってるんだな。最初からちゃんとそう言えばいいのに。 「そりゃあ、まあ、そうだけどさ。だからって、金輪際会わないってワケにもいかねーだろ?あやせはお前の大切な親友なんだからさ。」 「どーゆー意味?」 「お前にとって大事な人なら、俺にとっても大事な人って意味だよ。それに、あやせと約束したしな、お前を幸せにするってさ。」 「へ!?な、なに勝手に話してくれちゃってるワケ!?」 「こないだ学校の帰りがけに偶然あやせと会った時に言われたんだよ、ちゃんと幸せにしろってな。」 『お兄さん、もし桐乃にいかがわしいことをしたら、ぶち殺しますよ。でも、ちゃんと桐乃を幸せにしなかったら、もっとぶち殺しますよ。』 もっとぶち殺すってなんだよ!?って、思わず突っ込みそうになったよ、マジで。 「そーゆーワケだから、どこにも行かねーぞ。ま、受験生なんだから、大人しく部屋で勉強でもしとくからさ。それなら別にいーだろ?」 「ふ、ふん、あっそ。」 そう言って、ぷいっとそっぽを向く。 あいかわらず良く分からん妹様だ---。 昔の俺のモノローグなら、そんなところだな。 でも今はもう違う。 理由は---これを読んでくれているおまえらなら、言わなくても分かるよな? ------------------------------------- ピンポーン。 「あ、来た来た。」 パタパタと、桐乃が玄関に出迎えに行く。 がちゃ。 「いらっしゃーい、あやせ、、、と、御鏡さん?」 「やあ、こんにちは、桐乃さん。京介くんは居ますか?」 「居るけど、どうして二人揃って?もしかして、、、そーゆう関係になったとか?」 「ご、誤解だよ!桐乃!」 「いやあ、京介くんと遊ぼうと思って歩いて来てたら、ちょうどそこでバッタリ会っちゃって。」 「そ、そうそう。」 「で、聞いたら、桐乃さん家に行くところっていうから、一緒に来たんですよ。」 「一緒に来たんじゃなくて、たまたま一緒の方向に歩いて来ただけですっ!」 「ははは。ということみたいです。」 「てか、俺はお前と遊ぶ約束なんてした覚えはねーけどな。」 頭をかきながら玄関に出迎える。いつもながら、呼ばれてもねーのに勝手に遊びに来るやつだ。 「そういえば、お前ら、仲直りしたの?」 以前、こいつは、あやせのストーカー事件の際に、あやせを守るために、女装してあやせに近づいて、危うくあやせに通報されかかったのだ。 ストーカーから守るために、ストーカーみたいな行為をやって、ストーカーとして捕まってりゃ、世話ねぇって話だ。 「美咲さんから新垣さんに説明してもらって、この前の誤解は解けたんだけど、誤解じゃなかった分はそのままというか、、、ね。」 「わたしのために行動してくれたってことは、もちろん感謝してるんですけど、、、。その方法自体は、やっぱり変態なんで、近づかないで欲しいっていうか。」 可哀想なやつである。 「で?何しに来たの?お前は?」 「さっき言ったじゃないか、遊びに来たって。」 「つっても、俺ん家に来ても、遊ぶモンなんてなんもねーぞ?」 男二人で遊ぶって言っても、ゲームとか持ってるわけじゃないからな。何して遊ぶってんだ、一体? 「うーん、じゃあ、今日は天気も良いからさ、一緒にエロゲーしようよ。」 ぶっ!!!話に全く脈絡がねーぞ!!!それが男ふたりでやることか!しかも女子中学生の前でなんて台詞を吐きやがる! おまけに、よりにもよって、あやせの前で、とか、自殺志願者にもほどがあるだろ! 「なんですか、、、それ、、、。」 ほら見ろ!瞳から光彩が消えてキラーマシン状態になってんぞ!どうすんだ!? 「ほらこれ。アリスプラスの新作エロゲーを持ってきたんだ、『妹(マイ)家庭教師』。受験勉強中の京介くんへのお土産だよ。」 おい!なんてことを口にしやがる!わざわざ出して見せんな!しかもどんな内容なんだよ! てか、火に油を注ぐなんてもんじゃないだろ!コレは!火に爆薬を投げ入れるようなもんだぞ! まだほんの二、三分しか喋ってねーってのに、もう既にツッコミが追いつかん! さすがに桐乃も引きつっている。 あやせに目をやると---っ! やばい!とりあえず御鏡を外に追い出すっきゃねぇ! 御鏡を外に追い出そうと動いた直後。 「死ねぇーーーーー!」 あやせの回し蹴りが炸裂した! 運悪く間に入ってしまった、この俺にな! ------------------------------------- 「ご、ごめんなさい、お兄さん。」 気がついたらソファーに横にされていた俺に、しきりに謝るあやせ。 「つつ、、、久々だから効いたぜ、、、なんてな。大した事ないから気にすんな。」 「そうだよ、京介くんにとっては、むしろご褒美なんだから。」 「お前が言うな!」 結局上がりこんでやがる。どんだけ神経図太いんだか。 「そ、そもそも!あなたがあんなものを出すから悪いんじゃないですか!」 そのとーり。 「これ?」 だから出すなって! 「だ、出さなくて結構です!ホントに最低ですね!この変態!」 「可愛いと思うんだけどなぁ、、、。」 そーゆー問題じゃねぇだろ。 桐乃が前にこいつに言った、TPOをわきまえろって台詞を、覚えてねぇのか? それともTPOをわきまえた結果がこれなのか? どっちにしても残念なやつだ。 「はい、これ。」 冷湿布を桐乃が持ってきてくれた。 「おう、さんきゅ。」 「あやせ、ここに居ると変態がうつるから、あたしの部屋に行こ?」 それには俺も含まれてるのか?てか、妹エロゲ好きのお前も含まれるべきなんじゃないのか? と思うが、とりあえず、脳内ツッコミに留める。 「う、うん。お兄さん、本当にすみませんでした。」 「いいって、気にすんなっつったろ?」 「は、はい。では。」 パタン。 「ふう、京介くんも大変だね。」 「だから、お前が言うな!!!」 ------------------------------------- 「桐乃、ホントにごめんね。」 「あいつも言ってたっしょ、気にしなくていいって。あやせは全然悪くないんだからさ。」 誤りたいのはコッチなのに。こんなことになるんだったら、やっぱり京介を追い出しとけばよかった。 、、、まぁ、一番の原因は御鏡さんなんだケド。会うたびに残念さが増していってない?あの人。 「さ、じゃあ、気を取り直して始めよっか。」 今日は、卒業式の日にあやせが代表で読む答辞を一緒に考えるのが目的なんだから。 ------------------------------------- 「大体こんなトコかな。」 「うん、ありがとう、桐乃。」 「別にいいって。でも、こうやって答辞とか考えてると、いよいよ卒業かぁ、ってカンジがするよね。」 「そうだね、、、。わたし、桐乃に出会えて、本当によかった。」 「へ?ど、どうしたの、急に?」 「えへへ、なんか、答辞を考えているうちに昔のことを色々思い出しちゃって、、、。改めて、ちゃんと言葉にして伝えておかなきゃ、って思ったの。」 「、、、ありがとね、あやせ。あたしも同じ気持ちだよ。3年間、一緒に居てくれて、友達で居てくれてありがとう。それと、これからもよろしくね。」 「あたしのほうこそ、だよ、桐乃。本当に、本当にありがとう、、、。ねぇ、桐乃、今、幸せ?」 「へっ?と、突然なに言って、、、?」 「ちゃんと応えて。」 優しいけれど力強い口調でそう言って、あやせがじっと見つめてくる。 「ど、どうして、、、?」 「最近、桐乃、わたしにお兄さんの話、しなくなっちゃったじゃない?」 「そ、それは、、、その、、、。」 「桐乃、わたしに気を使ってくれてるんでしょ?」 「うう、、、。」 「桐乃。わたし、後悔なんてしてないよ。黒猫さんも、きっとそう。だって、あのとき、桐乃をたきつけたのはわたしたち自身なんだから。」 「だからね、桐乃。わたしたちのことを想ってくれているのなら、その分、しっかり幸せになってほしいの。」 「あやせ、、、。」 「ね?だから、ちゃんと応えて。」 「ぅぅ、、、、うん、、、、幸せ。」 う~、めっちゃ恥ずかしいんですケド。でも、ちゃんと言わなくちゃ、だよね。 「うん、なら良かった。これからは気を使ったりしないで、今までどおりの桐乃で居てね。約束だよ?」 「、、、うん、わかった。ありがとね、あやせ。」 、、、ホントに、あたしは、なんて幸せ者なんだろう。涙が出そうになる。 少し前まで、一生誰にも言わずにいるしかないと、ひとりで我慢し続けていたこと。 絶対に叶わない夢だと分かっていて、それでも、どうしても捨て切れなくて、叶えたくて、頑張り続けてきた日々。 その夢が、今、この手の中にある。そして、それを応援してくれる人たちがいる。 なにより、ずっといちばん近くに居たかった人が、いちばん近くでそばに居てくれる。 「じゃあ、指切り。」 そういって、あやせが小指を差し出してくる。 「うん。」 あたしも同じようにして小指を重ねる。 「わたしたちにも答えは分からないけど、これからもずっと応援しているからね。」 「あやせぇ、、、。」 思わずあやせに抱きついた。我慢していた涙が零れ落ちる。 あやせが、そっと、あたしの頭を撫でてくれた。 「えへへ、いつもと逆だね。」 期間限定-----。 このことをあやせが知ったら、どう思うかな? 怒るかな? でも、これが今のあたしたちにできる精一杯。それから先の答は、まだ見つからない。 だけど、この想いだけは、この期間が終わっても、ううん、これから先、どんなことがあっても、絶対に手放したりはしない。 あたしがあたしであるために。 これまでのあたしに、そして、これからのあたしに誓って---。 ------------------------------------- 「で、マジでどうすんの?」 「だから妹(マイ)家」 「却下だ。」 「つれないなぁ。」 「そんなにやりたきゃ、兄貴とやれば?」 「今日は用事があって出来ないって言われたんだ。」 「今日は、って、まさか、ホントにやったことあんの?」 「たまにね。」 御鏡兄、恐るべし。やるか?普通?いくら生活の面倒を見てもらっている弟の頼みだからっつっても。 、、、といっても、これが弟じゃなくて妹だったら、と考えると、やってることは同じなのか?うーん。 男同士の弟だったらダメで、妹だからセーフ?とか考えてしまう俺もつくづく末期症状だな、間違いなく。 それはそうと。 「で、お前のほうは、あやせとはホントになんでもないんだな?」 もう俺が口を出すことじゃないのは重々承知しているのだが、それでも、心配ではある。 ま、こいつが三次元の女の子とどうにかなる、なんてことがあるはずもないが。 「うん、なんでもないよ。だけどそんなに気にするってことは、京介くん、もしかして、、、。」 「そんなんじゃねーよ、ただ単純にあやせのことが心配なだけだ。お前はいいやつだけど変態だからな。」 「だったらいいけど。いや、僕のことは良くないけど。でも京介くん、新垣さんは確かに可愛い子だけど、浮気とかしちゃダメだよ。」 「するか!」 「ならいいけど。この世の中に女の子はたくさんいるけど、京介くんにとっての妹は、この宇宙でただひとり、桐乃さんだけなんだからね。」 「えらくまたスケールの大きい話になったな。」 思わず苦笑する。 でも、言われなくても分かってるよ。 桐乃は俺にとって、かけがえのない、たった一人の妹で、そして、誰よりもいちばん大切な存在だ。 これだけは、絶対に変わらない。 たとえ約束の時が過ぎて、恋人から兄妹に戻ったとしても。 これから先、どんなことがあっても絶対に護り抜くと、俺自身が決めたことなんだから。 俺が俺であるために。これからの生涯をかけて。 『こんなの、俺がなりたかった俺じゃねぇよ!』 ガキの頃、思い描いていた自分自身。どんなときでも妹のことを護ってやれる、すごい兄貴。 思い描いていた俺と違って、カッコ悪くてすまないな。 でも、たとえどんなにカッコ悪くても、妹のことは必ず護ってみせるからな---。 「幸せそうだね、京介くん。」 「、、、ほっとけ。」 ------------------------------------- 「おじゃましましたー。」 二人を玄関で見送ったあと。 「これからどうすんの?」 そう桐乃が聞いてきた。 さて、どうするか。結局、今日は全然勉強できてないしな、、、。 「まあ、受験勉強の続きをするさ。」 「妹(マイ)家庭教師で?」 「なワケねーだろ!」 「ひひ、じゃあ、しょうがない、あたしが代わりに妹(マイ)家庭教師をしてやろっか?」 「それって、おまえがエロゲーやりたいだけじゃねーの?」 「じゃなくて。あたしがあんたに勉強を教えてやろうかっつってんの。」 「中学生に勉強を教わる高校生の兄貴って、どんなだよ!なにを教えてもらうってんだ!?」 「英語のヒアリングとか?」 「む、、、。」 確かにこいつ、留学してたから、英語は普通に話せるんだよな、、、。 「聞き慣れたら、英語なんてそんなに難しくないって。普段使う機会が無いから聞き慣れないだけで。」 「それに、あたしも時々は話す練習しとかないと、忘れちゃうしね。一石二鳥っしょ。」 うーん。 「まあ、それは分からなくもないが、、、。お前が教科書を読んで、俺がその聞き取りの練習でもすんのか?」 「うーん。」 しばらく考えて、桐乃はしれっとこう言った。 「じゃあ、妹(マイ)家庭教師を一緒にプレイしながら、あたしがそれを英語で喋って、あんたが聞き取りする、ってのはどう?」 「ドヤ顔でとんでもない提案してんじゃねぇよ!!!」 発想が斜め上過ぎだろ! 「エロゲもできて、あたしの英語の勉強にもなるし、あんたの英語の勉強にもなるし、一石三鳥じゃん!」 真顔で言ってくる。ダメだこいつ、、、早くなんとかしないと、、、。 はぁ。しょうがない。 「、、、てことは、そういうシーンもお前が英語で喋ってくれんの?」 「な!な、な、んなワケないでしょッ!このどエロ!変態!シスコン!妹にエロゲーの朗読プレイさせるとか!あ、ありえないし!」 「お・ま・え・が・言・う・なーーーっ!」 Fin ----
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1611.html
130 名前:【SS】しすこんぶらこんぱんでみっく!?:2012/12/22(土) 11 58 45.30 ID Ge11C2MB0 クリスマス・イブの帰り道、京介と桐乃はひと山いくらのチンピラっぽい風体の連中に絡まれた。 自分が動かないと、桐乃が何か迂闊なことを口走りそうだ。京介はテンパリながらも作戦を立てる。 一瞬でも注意をひきつけることができれば、桐乃の足に追いつけるヤツはいないはずだった。 ただし、今日みたいに着飾っていなければ。 そこで京介は「ちょっと脱げ」とアイコンタクトを送ったのだが、真意が伝わりきらず「死ね」というアイコンタクトが返ってきた。 「なに、俺たち無視しちゃってんの?」 「一緒に遊ぼうよ~」 自分たちを蚊帳の外におく二人のやりとりをみて、ヤンキーたちは包囲の圧力を狭め、口々に囃し立ててくる。 自分たちに向けて伸ばされる手に京介は叫んだ。 「待て!……俺に触ると、病気が感染るぞ!」 口からでまかせに連中の動きがピタリと止まる。妹まで身を引いたことを京介は極力視界に入れないようにした。 しかし、効果は持続せず、奴らはニヤニヤ笑いながら聞いてくる。 「兄ちゃん、なんの病気だよ?」 追いつめられた京介の頭脳は時にキテレツな答えを弾き出す。この時もそうだった。 「俺の病気は……シスコンだーーっっ!!こいつは俺の妹だ!お前たちに妹はいるか? 俺に触るとシスコンが感染してクリスマスを毎年妹と過ごすことになるぞ!!」 寒い冬の空気が完全に凍った。突拍子もないことを口走った男を気持ち悪いそうに見やりながら、ヤンキーたちは こんな風 ∧,,∧ ∧,,∧ ∧ (´・ω・) (・ω・`) ∧∧ ( ´・ω) U) ( つと ノ(ω・` ) | U ( ´・) (・` ) と ノ u-u (l ) ( ノu-u `u-u . `u-u になる。 「わけがわからん」 「でも、あいつらが出てきたのって……」 「確かに髪のハネは似ているな」 「髪のハネって遺伝するのか?」 「風呂上がりでも完全に一致するレベルならばあるいは」 話合いの終わった彼らは高坂兄妹に向き直った。その間に逃げればいいのに、何故か二人は律儀に待っていた。 「俺に妹はいねーし」 「つーか、俺たちが触りたいのは妹ちゃんの方だし」 「そんなの絶対おかしーし」 そういってゾンビのごとく桐乃ににじり寄る。京介は妹を身体の後ろに庇い、最終手段に訴えた。 「バーロー!こいつは俺なんかメじゃない重度のブラコンだぞ!!寄るな触るな! 触ったら血の繋がらないアニキでもラブラブになっちまうぞ!お前らの間で(瀬ハ)な関係にハッテンしちまってもいいのかっ!?」 男たちは大変気持ち悪そうな顔をして動きを止めた。普通の人間が咄嗟にこんな妄想を思いつくものだろうか。 そんな不安に駆られたのである。こうなれば京介の独壇場だ。 「いいか、良く聞け。俺のシスコンと俺の妹のブラコンは不治の病だあああああああっ!!!」 変態の放った絶叫が、ビルの谷間にこだまし、クリスマスの星空に消えていくと、ヤンキーたちも逃散した。 京介の叫びを信じたと言うよりも、こんなことを叫ぶ変態のカップルに関わりたくないと思ったのであった。 かくして脅威が消えた。「決まったぜ」と振り返る京介のドヤ顔にこぶしがメリ込む。 「あああ、あんたねぇ!何か迂闊なことを口走るんじゃないかと思っていたけど、まさかここまでとは……ッ」 桐乃の握り拳がワナワナ震える。顔を押さえながら京介は自己弁護した。 「ま、まあまあ、おかげで無事に済んだだろ?」 「っさい!あたしのブラコンは病気じゃないっつーの!……ハッ」 桐乃はあわてて口をつぐんだ。そんな妹に兄は威厳をもって鷹揚に言ってやった。 「俺のシスコンだって病気じゃねえよ」 「……病気じゃなかったらなんなの?」 ちょっと上目遣いで桐乃は問いかけた。京介はナイススマイルで即答する。 「人生、だな」 「キモ」 ブラコンはジト目で短く漏らした。高度に発達した8ビットシスコン脳で「キモ」を256通りに翻訳できるシスコンは腕をさしだす。 二人は寄り添って、同じ方向に歩き出す。 これからの人生を示すように―― ----------
https://w.atwiki.jp/kiririn/pages/1740.html
ある日の初夏の晩。何気なく庭に出て空を見上げると、綺麗な月が出ていた。 「でけえな」 普段よりも大きく輝く見えるその月は、最近のぐずついた天気を忘れさせた。 後で知ったことなのだが、この日は「ス-パームーン」といって、一年の中で一番大きく、明るい月が見れる日だったんだとか。 「・・・まるで桐乃の顔みたいだな」 いつかいったセリフを繰り返す。 丸くて綺麗なものを見るたびに、桐乃の顔を思い出してしまう自分に何度苦笑したことやら。 それでも懲りずに思い出すんだから、俺もいよいよもって末期である。 座って眺めようかと、縁側に座りながらそんなことを考えていると、後ろから声がかかった。 「呼んだ?」 振り返れば、桐乃がこちらに向かって窓から身を乗り出していた。 「別に呼んでねーよ」 「ウソ。今絶対『桐乃』って言ったでしょ」 俺の隣に座りながら桐乃が言う。 耳ざといやつだな。 別に肯定してもいいんだが、理由が理由なだけにあとが怖い。ここは黙っていることにすっか。 「気のせいだろ」 「何してたの?」 桐乃もそれほど気になるわけじゃなかったようで、それ以上は追求はしてこなかった。 「月を見てたんだよ」 「月?」 「ああ」 「あんたにしちゃ随分ロマンチックじゃん」 「ほっとけ!」 桐乃と一緒に月を見上げる。 「なんかすっごい明るくない?」 「それにでかいな」 目を輝かせて月を見る桐乃。 そんな桐乃を見てて、少しだけイタズラ心が湧いた。 あえてわかりづらく、でも直球で。 そんな俺達らしいセリフ。 「なあ桐乃」 「なに?」 「『月が綺麗だな』」 さて、こいつはわかるだろうか。 「・・・・・・ぷっ」 少しだけきょとんとしていたかと思うと、次の瞬間には吹きだした。 頬を少し赤らめちゃいるが、ニヤニヤと嫌らしい顔をしてやがる。 完全にこっちの思惑がバレちまってるようだ。 「そうだね~・・・・・・まあ、今回はあんたと同感かな」 そこで少しだけ間を空けて。 「『月が綺麗だね』」 そのセリフに、お互い顔を見合わせて。 「ひひひ」 「ふひひ」 子供のように笑いあった。 「そういやさ」 「ん?」 「さっきのことなんだケド」 「さっき?」 「あたしのこと桐乃っていったっしょ?」 「その話かよ」 まだこいつ諦めてなかったのか。 「んだよ、別にいいだろ」 「うん」 おや、と思う。桐乃が何を言いたいのがイマイチ掴めない。 「嬉しかったからさ」 「嬉しい?」 「うん。最近は、あんまり名前で呼んでくれなかったじゃん」 「ああ・・・」 やけに突っかかってくるかと思えば、そういうことか。 「それはしかたなくね? てかお前が決めたことじゃん」 「それは! そうだケドぉ・・・」 まあ、最近はなかなか二人きりってこともなかったしな。 「桐乃」 「あっ」 愛しい人の名前を呼びながら、肩を掴んでグイッと自分の方へと引き寄せる。 桐乃も声はあげるが、逆らわずにこちらに体重を預けてきた。 いい匂いがする。桐乃の匂いだ。 「京介」 「ん?」 「ふひひ、なんでもない」 「なんだそりゃ」 「いいじゃん。呼びたくなったんだもん」 「そりゃ仕方ないな」 桐乃。京介。と意味もなくお互いの名前を何度も呼び合う。 「やっぱさ」 「おう」 「こっちのほうがしっくりくる」 「名前で呼ぶほうがか?」 「そ。ずっと呼んできたわけだしさ。別に、今のが嫌ってワケじゃないんだけどね」 それはそれで嬉しいし。と桐乃は続けた。 「ま、俺もそうかな。お前にはやっぱ、名前で呼ばれたほうがしっくりくるわ」 「妹なのに?」 「妹なのに」 「シスコン」 「うっせ。お前だって一緒だろブラコン」 「あたしはいーの。妹だから。あんたはキモイの。兄だから」 「また懐かしい理論を持ち出しやがって」 ぎゅっと抱きしめてお仕置きしてやると、離せと暴れる桐乃。 いいのか? とわざと聞き返せば「やっぱこのままでいい」と可愛いお返事が。 こいつも随分素直になったもんだ。ちゅーするぞこいつめ。 「おかーさん?」 そんな風に桐乃といちゃいちゃしてると、聞きなれた声が聞こえた。 二人揃って後ろを振り返る。 「優ちゃん」 「涼介も一緒か」 二人に俺達が気付いたことがわかると、優乃はトテトテと桐乃に近付いてポスンと抱きついた。 「う~」 「あらら、ふらふらしちゃって。てかもう寝てる!?」 桐乃の腕に収まった瞬間には落ちてしまっていたようだ。 既に気持ちよさそうにすーすーと寝息を立てている。 寝つきのいいこって。 「お父さん」 「涼介、どうしたんだ?」 「ゆうのがトイレいきたいって」 「それでお前がついていってやったのか?」 こくんと頷く涼介。 ぐりぐりと頭をなでてやる。こいつもいいお兄ちゃんやってるじゃねえか。 「えらいな」 「へへ」 照れくさそうに笑う涼介。 そのまま俺の隣にストンと座って足をプラプラさせる。 「ふひひ、優ちゃんかわええ」 隣を見れば、優乃の顔を眺めながらだらしなく笑う桐乃。色々台無しである。 オマケに、優乃をつんつんつついてるせいで優乃がムズがってるじゃねえか 「桐乃。あんまりつんつんしすぎて優乃を起こすなよ?」 「あんたじゃあるまいし、そんなことしないっての」 俺じゃあるまいしとはどういうことだ。 俺はいつだって起こさないようにつんつんしてるんだぞ。 なのに起きるのはお前がいつも狸寝入りしてるからだろうに。 「お父さん、お母さん名前で呼んでるの?」 「ん? ああ」 そういや、こいつらがいるんじゃもとに戻さないとダメかね? 俺としては今日はもうこの呼び方のままいたい気分なんだが。 「どうする? 『母さん』」 「・・・今日はもういいんじゃない?『お父さん』」 わざとらしくそういいあって、クスクスと笑う俺達。 もともと、優乃が間違って俺達を名前で呼ばないようにって措置だったわけで。 優乃が桐乃を「りの」と呼んだ時は二人して焦ったもんだ。 今は優乃もねてるし。涼介はもう問題ないしな。 「んじゃ、今日はもう『桐乃』でいいな」 「うん。『京介』」 そんな俺達を不思議そうに見る涼介の顔が面白くて、俺達は余計に笑ってしまった。 「京介」 「親父?」 「あら、優ちゃん寝ちゃったの?」 「お母さんまで」 おいおい、どうなってんだこりゃ。高坂家一家全員揃っちまったじゃねえか。 「涼介達と一緒に寝たんじゃなかったのか?」 「それがねえ、優ちゃんがおトイレいきたいっていって、涼介がついていったのはよかったんだけどね? けどそれが心配だってお父さんがこっそりついていっちゃうもんだから」 親父・・・。 「べ、別にいいだろう! 孫の心配をして何が悪い!」 「はいはい。大きな声出さないで。優ちゃんが起きちゃうでしょ」 「むぅ・・・」 まったく。相変わらず孫煩悩なこって。 涼介や優乃に「おじいちゃん」って呼ばれてるときの親父は威厳も何もあったもんじゃないからな。 「それよりお前はこんな所で何をしている」 「月を見てたんだよ。今日はいい天気だからな」 「あらホント。綺麗ねぇ」 「うむ。悪くないな」 俺と桐乃と、涼介と優乃と。それに親父とお袋。 みんなが揃って同じほうを見ている。 昔では考えられなかった未来。 掴み取った尊い今。 あの時の俺の選択は、きっと間違ってなかった。 だって、俺は今、こんなにも幸せなんだから。 「なあ桐乃」 「何、京介?」 「今、幸せか?」 「え?・・・・・・ばーか」 ちゅ、っと俺の唇にあたたかなものが伝わる。 「あんたと一緒」 そう言った桐乃は、世界のどこの誰よりも綺麗だった。 ああ、きっと俺はこの先もずっとこれを繰り返すんだろうな。 俺の妹がこんなに可愛いわけがない。 おわり